PROJECT

日本人の伝統的な食文化である和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、今世界中で日本食のブームが起きている。こうした中、日本各地の名産品や郷土料理などをアジア各国へ輸出し、日本食の拡大を進めているのが卜部である。
「日本全国の生産者やメーカーと協力し、日本の豊かな食分野を世界へ発信していくことをミッションとし、現在は香港・シンガポール・マレーシア・タイ・フィリピン・カンボジア等の経済発展が著しい東アジア・東南アジアを中心に日本の食材を輸出するプロジェクトに携わっています」
アジアでは、香港・シンガポールを中心に富裕層が増え、日本の高級食材への関心は高まっている。加えて日本を訪れるアジアの旅行者が増え、日本で食べて美味しかったものを現地に帰ってもう一度食べたいというニーズも増えている。四季が明確な日本には多様で豊かな自然があり、海のもの、山のもの、里のものなど、日本各地の風土に合った食文化が根づいている。
「東南アジアでは四季がありませんし、現地の人たちは日本食というといまだに、鮨、天ぷら、すき焼きといった認識しか持っていない人たちが大勢います。そういった方々に、日本の四季をイメージした日本食の豊かな世界を提供していきたいというのが私たちの想いなのです」
単に食材を届けるだけでない。調理の仕方、味わい方など、食を通した日本文化そのものの浸透を目指しているのである。

プロジェクトのもともとの成り立ちは、全日空商事のグループ会社であるANAフーズで行っていた日本の百貨店のカタログギフトの商品提案事業に遡る。百貨店のカタログギフトにはまさに全国津々浦々の銘品が揃っている。
「最初は、日本の良いものであれば海外でも売れるに違いないというところからスタートし、日本各地から仕入れた鮮魚、ブランド和牛、青果物などを、海外現地の日本食レストランや高級店にご紹介していきました。しかし、現地の嗜好やニーズなどのマーケットインの分析ができていなかったため、すぐに事業が拡大するということにはつながりませんでした。また、こうしたものはいわゆる生もの、一次産品のため、加工度が低く、参入障壁が低いので競合他社も多く、そのときの相場にも左右されがちです。そこでそれら一次産品に当社独自の付加価値を加えて提供し、コンスタントに売上を確保していくというビジネスモデルを作っていきました。」
付加価値の高いテーマ性を持った独自の提案を織り込むとともに、現地のニーズを理解し、日本食の基本はあくまでも崩さずに、塩味や甘味などの味付けを現地の嗜好に合わせ変えていく。それには、食材を供給する日本の取引先の協力も欠かせない。ANAフーズのギフト事業の取引先に加え、日本の各自治体に足を運び紹介してもらった地元の老舗などを合わせ、現在日本における取引先は1,000社にものぼる。その中でも製造能力が高いメーカーと一緒に商品開発を進めるとともに、観光客に評判の高い有名な和菓子の老舗に対しても、商品の海外輸出を提案。合意に至った場合は、共に海外への輸出展開を進めていく。そのために、卜部自身、現地の海外販売先や日本の取引先、地方自治体やJETRO(日本貿易振興機構)などにも足を運び、積極的に情報収集を行っている。

「現地に行ってみないと、そこでのニーズはわかりませんので、現地での情報取集は欠かせません。同じ東南アジアといっても国によって嗜好やニーズは違います。それぞれの国のニーズをつかむことで、自分だけでなく、私たちチーム全体の対応力が上がります。対応力が上がれば、自ずとそこでのノウハウや実績をもとに、他の国への展開という次へのチャンスも生まれやすくなります。」
現在、一次産品から日本食総菜、和菓子、日本酒など取扱商品の幅を広げてきているが、今後はさらにラインナップを充実させていきたいというのが目標だ。また、展開先も、東南アジア、東アジアから、将来的には世界を見据えている。
「当社では、食品事業一つとっても、バナナの輸入やアメリカ産ナッツ・ドライフルーツの輸入、日本の量販店・スーパー・コンビニへの営業活動、私たちの輸出事業、ギフト事業など、多種多様な業務があります。そういったところで、若いうちから責任ある仕事を経験でき、何事にもチャレンジできるというのが当社の一番の魅力です。私も若いうちからいろいろやらせてもらえました。もちろん、すべてがうまくいくわけではありません。全体の約3割の提案が通り、あとの3割は改善を加えて採用され、残りの3割は残念ながら失敗です。それでも、成功体験とともに失敗の中からも多くのことを学ばせてもらっています」
どこであっても、「食」は人々の生活に密着しており、食べることに興味のない人間はほとんどいない。自分の努力が結果として見えやすいというところにも面白さがあると卜部は言う。日本食材の輸出による新しいスキームを構築し、世界各国への他国展開を成功させ、全日空商事グループの強みを活かした複合展開の輸出事業を実現させる。その夢はまだ道半ばだ。