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「空から宇宙へ」……ANAグループが宇宙事業に乗り出すと聞いて、多くの人が宇宙旅行をイメージするかもしれない。 しかしANAホールディングスに出向しグループ全体の次世代戦略に携わる部署で宇宙事業に関わる鬼塚は、「宇宙事業＝宇宙旅行ではない」という。
「宇宙をめぐるいろいろな事業で収益を上げて力をつけた上で、来るべき時が来たら宇宙旅行へ。これが私たちの描くビジネスストーリーです。 宇宙事業への取り組みの方向性を検討する中で、“宇宙では、自分たち商社が得意とする分野での可能性がかなり広そうだ”ということが見えてきています」
宇宙を対象とする事業は、真のフロンティアビジネスである。

「航空機と衛星では、飛行する高度は10kmレベルと数百kmレベルと大きく違うが、宇宙事業では考えられている以上に総合商社のノウハウが活かされる」と鬼塚はいう。 総合商社として磨いてきた「トレーディング」「ファイナンス」「事業投資」といった機能は、宇宙事業を拡大していく上でも存分に発揮されるのだ。 中でも全日空商事のエアライン系商社として培ってきた「トレーディング」のノウハウは、宇宙事業において確かな強みとなる。
「トレーディング」の基盤となる航空機関連の各種メーカーとユーザー企業を結ぶサプライチェーンは、全日空商事の大きなアドバンテージである。 なぜならば航空機産業に展開するメーカーの中には宇宙分野へ進出している企業があり全日空商事が持っているネットワークが活かせる。 また全日空商事が備えている幅広い「ファイナンス機能」は、様々な企業が参画するプロジェクト推進に不可欠。 さらに商社として蓄積してきた「事業投資」の経験・ノウハウも、イノベーティブな技術を持った世界各国の宇宙ベンチャーと手を結んで事業成長を加速させていくために、大いに役立つだろう。 持前の商社機能を武器に、宇宙事業に取り組む全日空商事。ただし、その行く手には、未踏の領域を相手にする仕事ならではの難しさが待っている。
「一般的な商品やサービスの取引であれば、一定の常識があります。しかし人工衛星の搭載スペースの取引は、前例のない世界ですから、頼れる常識がない。 ですから自分たちで、顧客へのアプローチ方法や成約に至るまでのプロセスを切り拓いていかなくてはなりません」と、中尾は一筋縄にいかない宇宙事業でのマーケティング活動を語る。 「入社以来、国内・海外で様々な新規事業の開発・推進を経験し、幾度も自分にとって新しい領域に挑んできた」という中尾。 宇宙事業においても、これまでに身に着けてきた事業創造に関する知見と全日空商事のネットワークを活かして、その時々の最適解を見出して、プロジェクトを着実に前進させていくに違いない。

鬼塚は、「全日空商事の宇宙事業がANAグループの未来、さらには日本の航空産業の未来に重要な役割を果たす」と確信するかの表情で語ってくれた。
「今から約半世紀前、我が国の航空産業は、商社が有効に機能し、欧米からの大型航空機の調達を支えたことにより、創成期から発展期・成長期へとシフトしていきました。 それと同じことが、今まさに宇宙という領域でも起きようとしています。私たち商社が真価を発揮するのは、需要と供給のギャップが存在するシチュエーションです。 求められる物や情報を求められる場所に届けることで、宇宙へのネックとなる需給ギャップを解消することが全日空商事に課せられた使命だと思います」
鬼塚と同じように中尾も、宇宙事業が持っている意義を非常に強く意識している。
「私たちの宇宙事業は、事業の多角化、売上の獲得などによるANAグループの企業価値向上のみならず、社会価値の創出にも資する取り組みです。 私たちの事業によって宇宙空間に打上げられた人工衛星から得られる多種多様なデータや技術は、あらゆる産業分野でイノベーションを起こすだけでなく、地球温暖化対策、防災、エネルギーといった社会課題の解決、ひいてはSDGs（持続可能な開発目標）達成にも貢献します」

宇宙事業が立ち上がった当初、「宇宙で飯が食べられるのか」という声もあった。それでも「次は、宇宙へ」という経営トップの力強いバックアップを支えに、鬼塚たちが「宇宙事業への思い」を言葉にし続けることで、社内の賛同者が次第に増えてきており、社外においても共に宇宙事業を進めていくパートナーの輪が広がってきている。 「国家の宇宙計画を司る各省庁や関連機関」「人工衛星を打上げる事業者」「航空宇宙関連のプロダクトを手掛けるサプライヤー」「独自の技術やアイデアを宇宙で花開かせようとするベンチャー企業」 「宇宙で要求される極限の科学技術を探求する大学・研究機関」……宇宙に夢をかける様々な人や組織とつながり合いながら、アジアをリードする宇宙商社を目指して、鬼塚、中尾たちの挑戦は続いていく。